グ ロ リ ア 、

( い つ も 隣 に い た の は 君 な の に )



「今日はここまでだ」
「お疲れ様でした!」
「1年はボールとネットを片しておくように」
「はい!」

手塚が部活の終わりを告げると同時に、私は腕いっぱいにタオルを抱えてコートへ向かう。

「はい、お疲れ!」

練習を終えた部員達にタオルを配る。
そしてまた部室に戻り、今度は用意しておいたドリンクをカゴに詰めて再びコートに戻る。
毎度毎度の事なんだけど、このドリンクの重さと言ったら半端なくて・・・!
一本一本は大した重みではないんだけど、それが数十本となれば訳が違う。
顔も自然と歪む。ああ・・・今きっとものすごい顔してんだろうな・・・

「くすっ、さんすごい顔だね」
「ちょっと不二・・・!そう思うなら運ぶの手伝って・・・!」
「言われなくても、そのつもりだったよ」

そう言って、私の手からカゴを軽々と持ち上げる不二。

「どうしたの?」
「いや・・・私と腕の細さそんなに変わらなさそうなのに、どこにそんな力があるのかなと」

カゴを持っていない方の手に自分の手を添えてみる。
え!ほぼ同じといってもいいくらいの腕の細さ・・・!
ってか色白っ!知ってたけど、色白っ!

「そりゃ毎日テニスで鍛えてるし・・・ね」
「何その意味深な笑みは・・・色も白いしさ・・・私だってマネ業頑張ってるのにな。肉しかついてないよ・・・」
「へえ、そうなの?でも柔らかくて気持ちいいよ」

自己嫌悪に陥っていると、突然不二が私の二の腕をつまむ。

「ちょっ・・・!つまむな!肉つまむな!」
「あー!不二ー!なんでの肉つまんでんのー!?」
「こら!菊丸!声がでかい!みんなに聞こえる!!」
「俺も触りたいにゃー!」
「ちょっと!人の話を・・・!わっ、ちょ・・・!!」
「えー!不二には触らせたのに、なんで俺は駄目なのー?」
「違う!触らせたんじゃない、勝手に触ったの!」
先輩、ドリンク貰っていきますよ」
「、リョー「誰かさんがとろとろしてる間に、先輩達みんな部室に戻ったけど」

リョーマにそう言われて、コートに見渡すとそこには片付けをする1年生しかいない。
しまった、と思ったのも束の間、振り返るともうそこにリョーマはいなくて。
部室に入っていく背中が見えた。

「・・・あちゃー、おチビ怒っちゃったかにゃー?」

先輩」

いつもは下の名前呼び捨てのくせに。本当にリョーマはわかりやすい。
きっと不二と菊丸と話していたのが気に食わなかったんだろうな。
人一倍やきもちやきなリョーマのことだ、絶対そうに違いない。

さん、このドリンク部室にいるみんなに配っておくから着替えてきなよ」
「・・・え、あ、ごめん。ありがとう・・・」
「こちらこそ。この状況つくっちゃった僕にも原因あるしね」
「ほんとおチビはやきもちやきだにゃー!」 「ほら、いっておいで」
「あ、うん」

不二に背中を優しく押されて、私はそのまま女子更衣室に向かって駆け出した。





リョーマが不機嫌になる事はよくある事だから、今日もいつもみたいに謝って仲直りすればいいって思ってた。
だから、急いで着替えて部室前でリョーマを待つ事にした。
しばらくして、ドアの開く音が聞こえて、視線を向けるとそこにはリョーマ。
さっきと変わらずムスッとした表情で、私と目を合わそうともしない。
それもいつもの事。
そしてそのまますたすたと歩き出す。私はその後を追いかける。

「リョーマ!」
「リョーマってば!」

何度呼んでも振り向いてはくれない。聞こえてるはずなのに、聞こえてないふり。

「・・・もう、リョ「いつも、あーやって他の男に体触らせてんの?」

リョーマがこちらを向くのはまだまだ先だと思っていたから、思わず息を?む。

「そんなことっ・・・」
「アンタ無防備すぎ」

リョーマが不機嫌になる事はよくある事だから。
でも、今日のリョーマの様子はおかしい。何かが違う、何か嫌な予感がする。

「ちやほやされていい気になってんじゃないの?」
「っ・・・」

なんで・・・?
ただ、私はみんなの役に立ちたくて、リョーマを支えたくて・・・

「そんなに不二先輩がいいなら、不二先輩と付き合えばよかったじゃん」

鈍器で頭を殴られた、そんな感覚を覚える。
ねえ、今・・・何て・・・

「・・・越前、それ本当?」

突然頭の上から声が降ってきて。
振り返ると、そこには不二が立っていた。

「不二・・・?」
さんと別れてくれるって、そうとってもいいのかな?」

不二の鋭い瞳がリョーマを捉える。
リョーマは帽子を深く被り直して、ゆっくりと口を開く。
そして私はリョーマの口から放たれる言葉に絶望する。

「・・・いいんじゃないっすか」

頭がついていかない。
ねえ、なんで?どうしてこんなことになってるの・・・?
私が好きなのは、リョーマだけなのに・・・
リョーマは一度も私を見る事なく、踵を返してこの場から立ち去った。
その後姿が目に焼きついて離れないよ。



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