「がっくんはちゃんのこと・・・好き?」

体育館に帰ってきたら、跡部に怒られて。
上に羽織ってたジャージを脱いでたら、ジローのこの質問。

「・・・嫌いだったら、友達なんかやってないぜ」
「違うよ・・・わかってるくせに」

ジローの言う通りだった。
わかってた。
わかってたけど・・・

ちゃん、泣いてたよ」
「っ・・・!」

落ち着け、落ち着け。

「気付かなかった・・・なんてわけないよね?友達なんだもん」

確かにずっと様子がおかしかった。
無理して笑ったり。俺が呼んでも無視したり。

「気付いてた。気付いてたけど・・・何も」

―――言わなかった。
聞いても、は言わなかったんだ。

「言わなかった?言わなかったんじゃないよ、言えなかったんだよ」

の事、一番わかってるのは俺だよ。
そう言われている気がして・・・悔しかった。
俺の前では涙なんか見せなかったのに。
俺の前では弱音なんて一言も吐かなかったのに。
ジローの前では・・・
そう考えるといつの間にか頭に血が上っていて、

バキィッ!!

ジローの頬を思いっきり殴っていた。

「ってー・・・」
「・・・はぁっ、はぁ」

その勢いで後ろに倒れたジローは、頬擦りながら上半身を起こした。
の事を一番わかってやれてるのも、の隣にいられるのも・・・
俺だけだって自惚れてたんだ。

「岳人っ!!」
「ジロー!!」

それに気付いた侑士達が止めに入ってくる。
イライラする。拳が痛い。みんなの声がうるさい。
・・・悔しい。
気付いてしまった。
気付かなければよかった。
俺きっと・・・の事が好きだったんだ。

「がっくん」

名前を呼ばれて顔を上げる。
その瞬間、左頬に激痛が走った。

「っジロー!!」

宍戸がジローを抑える。

「いってぇー・・・」

頬がズキズキする。
俺は侑士に抑えられて、ジローは宍戸に抑えられて。
2人とも身動きがとれなかった。
間に入って長太郎が意味もなく、わたわたしている。

「さっきのお返し」

頬を赤くして二ッと笑うジローを見ていると、なんか馬鹿らしく思えてきて。

「っはは」

思わず笑ってしまった。

「お前らこんな騒ぎ起こしてわかってんだろうな、あーん?」

顔を上げれば眉間に皺を寄せた跡部がいた。

「・・・わりぃ、跡部」
「跡部、ごめんね!」
「ジロー・・・ほんまに反省してんのかいな」

ジローはいつもと変わらない調子で、みんなから溜息が漏れる。
抑えられていた体は解放されて、自由になった。



「気付いた?自分の気持ち」


長太郎から渡された氷嚢を頬に当てて、練習の邪魔にならないところで休んでいた。
沈黙の中で先に口を開いたのはジローだった。

「・・・うん、悪かった」
「ううん、いーよ。おあいこ様だC。これからどうするの?」
「とりあえず・・・話、しないとな」
「・・・」
「部活終わったら、会いに行ってくる」
「・・・そっか」
「なあ、ジロー」
「ん〜?」
「お前、の事、好きだろ?」

沈黙が流れる。
その沈黙が俺の不安を?き立てる。

「あはは、バレちった?」

ジローは、はにかむように笑った。

「好きだよ、がっくんもちゃんも」
「え・・・」
「だから幸せになってほしいと思うC、幸せにしてあげたいとも思う」
「ジロー・・・」
「あれ!?俺ってマジ欲張りだC!!」

「あははっ」そう言って笑うジローを見て羨ましく思った。
ジローは自分の気持ちに忠実で。
俺みたいに、友達に言われて初めて気付く馬鹿じゃない。

「・・・がっくん」

さっきと違って真剣なジローに俺は息を呑んだ。

「泣きたい時は我慢しなくていいんだよ」

「誰が泣くかよ」

そう言いたかったけど、ジローを前に嘘なんてつけなかった。

「・・・うん、サンキュ」



甘 い 後 悔

(この気持ちに気付かなければ、辛い思いもしなくて済んだのかもしれない)



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