。こいつが俺の彼女」

の反応が楽しみで楽しみで仕方なかった。
きっと憎まれ口の一つや二つ叩いて、悔しがるんだろうと期待に胸を膨らませていた。
そう信じていたのに―――。

「・・・そっか、おめでとう」

そう言って無理やり笑おうとする、を見て胸が苦しくなった。
なんで、そんな顔するんだよ・・・

「ほら、授業始めるぞ!席に着け」

運が良いのか、悪いのか、ちょうど担任が教室に入ってきて俺達の会話は絶たれた。
俺はとりあえず席に着いた。
横目でチラッとの様子を伺えば、は窓の外をぼーっと見つめていた。
らしくないあいつに不安が募る。
何か・・・あったのか・・・?

「なあ、

そっと小声で名前を呼ぶ。
けど、は気付かない。
聞こえなかっただけ。
そう思おうとしても、焦りと不安は俺の中に募っていく。
こんな事、いつもなら何も思わないのに・・・



もう一度、名前を呼ぶ。
振り向いてくれなかったら・・・そう思うと怖くて仕方がなかった。
はビクッと肩を揺らして、怯えるような目で俺をみる。

なんで、そんな目で俺を見るんだよ・・・
いつもなら「ぶっはは!何、ビックリしてんだよ」そう言ってやるのに・・・
そんな事を言える雰囲気ではなかった。

「どうしたんだよ」
「・・・何が?」
「何がってお前、元気ないじゃん」

そう言うと、の顔が少し歪んだ。
本当に些細な事だったけど、俺にはわかってしまう。
俺はずっとの隣にいたから・・・

「別にそんな事ないよ、バーカ」

「バーカ」

いつもならむかつく、憎まれ口が今は嬉しかった。
今日はなんか変だ。
じゃなくて、俺が・・・
の様子を伺って、ほっとしてる自分がいる。

(なんだ・・・これ・・・)

「私に何して欲しいの?」
「え・・・?」

一瞬何を言ってるのかわからなくて、俺はの顔を凝視してしまった。
するとあいつは顔を赤くして俯いた。
さらに訳がわからなくなって、俺は俯いたを下から覗き込んだ。

「おい・・・何だよ一体、教えろよ」

顔を上げたは、少し目が潤んでるようにも見えた。
は筆箱からシャーペンを取り出して、ルーズリーフに何かを書き始めた。
俺はどうしたらいいかわからなくて、とりあえず視線を前に戻して授業を聞いているふりをした。
すると、いきなり隣から小さく畳まれたルーズリーフが飛んできた。
飛んできた方に目をやると、は何事もなかったように授業を聞いている。
折り畳まれたルーズリーフをゆっくり開く。
そこに書かれてあった一文に俺は酷く動揺した。

『城崎さんのどこが好きなの?』

ただ好きなところを答えればいい。答えればいいのに・・・・
答えが・・・出てこない。
思わず城崎の方を見る。真面目に授業を受けている城崎の姿がそこにあった。

『城崎さんのどこが好きなの?』

そこで初めて気付いた。
城崎の事を何も知らない自分に。そして自分の愚かさに。
浮かれてたんだ・・・





「おい、岳人っ」
「んー?」
「城崎って可愛いと思わねぇ?」
「は?なんだよ、いきなり」
「いいから!」
「ってか、しろさきって誰だよ」
「お前の斜め前に座ってる奴!」
「・・・あー、見てないからわかんねーや」
「お前、とばっか喋ってるもんな。何、お前ら付き合ってんの?」
「ぶっほ・・・!」
「うわっ汚ね!お前噴き出すなよ!」
「げほげほっ・・・へ、変な事言うなよな!」
「あははっ、わりぃわりぃ!とにかくさ、見ればわかるって!」

昼休みに友達にそう言われて、興味なんて全くなかったけど自分の斜め前の奴を見た。
そこで初めて見た城崎は、横顔が綺麗で大人しそうな感じが“大和撫子”みたいだなと思った。
そしてみんなが好きそうなタイプだなと、そう思った。
俺が思ったのはそれだけで、だからどうとかいうのはなかった。
今の俺はと他愛ない話をして笑ってる方が好きだったから。
それに、俺とは縁のない奴だと思ってた。
だから城崎が連絡先を聞いてきた時は心臓が飛び出そうなくらいびっくりした。
俺はきっとその時点で優越感に浸ってたんだと思う。
そして城崎からの電話で告げられた言葉。
完璧に舞い上がってたんだ・・・
友達が“可愛い”と言う子に告白されて。
いつも告白されるのは侑士ばかりだったから。
俺を見てくれてた人もいるって事が純粋に嬉しかった。
そして、あいつの・・・の反応が楽しみで仕方なかった。
俺は城崎のどこが一体好きなんだろうか。





「ごめん」

ルーズリーフを手に、色々考え巡らせていると隣から小さな声が聞こえた。

だった。
申し訳なさそうな顔でこちらを見ていた。

「そんなこと言われても困るよね」

だからなんで・・・そんな悲しそうな顔、するんだよ・・・

「約束はちゃんと守らないとね、で?私に何して欲しいの?」

「約束」

その一言でやっと何の事かわかった。

「負けたら勝った奴の言う事を一つ聞くってのでどうだよ」

俺が言った言葉だ・・・
自分で言っておきながら、何をして欲しいかとか全然決めてなかった。
けど・・・
を見て、願いはすぐに決まった。



君 の 笑 顔 が み た い

(そんな顔すんなよな・・・バカ



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