帰路につこうと氷帝学園の門を通ってしばらくしたところで、壁にもたれる男の人を視界に捉える。

「大野くん・・・」

私の声に気付いた彼はゆっくり壁から背を浮かせ、こちらを向く。

「悪い、こんなところまで来て」

そう彼は他校の生徒で。
登校時間がたまたま重なっていたとかで私の事を知って、一目惚れだと告白された。
けど、私はその気持ちに応える事は出来ないとお断りした。
その彼が今こうやって私の目の前にいる。
恐怖と嫌悪が襲う。

「ごめんなさい、私あなたとは・・・」
「なんでだよ、絶対大事にするから」

そう言って急に掴まれる手。

「っ・・・やっ」

私はびっくりして、その手を振り払う。
そして逃げるように再び門の方へ向かった。

「おいっ!待てって!」

後ろから大野くんの叫ぶ声と追いかけてくる足音が聞こえる。

(やだ、怖い・・・助けて!)

ちょうどその時だった。
門から出てくる忍足の姿を捉える。

「忍足っ・・・助けて」

忍足は私が来た方向に目をやる。

「了解」

忍足がそう言った次の瞬間、私は腕を引っ張られて壁に押さえつけられる。
左手はがっつり掴まれていて、右頬横には忍足の腕。
所謂、壁ドン状態で目の前には忍足の整った顔。

「っ・・・」

忍足の顔が近すぎて声も出せないし、動けない。

・・・」

追いかけてきた大野くんが私の名前を呼ぶ。

「なんや、ええとこやったのに邪魔せんといてや」
「っ・・・お前、一体の何なんだよ」
「俺か?見てわからんか」

そう言って私から離れた忍足に一瞬ほっとしたのも束の間、掴まれていた左腕がまた引っ張られる。

「こういう関係や」
「っ・・・おしっ・・・?!」

今自分の身に何が起きているかわからない。
ふわっと香る、優しい香り。
さらっと頬に触れる、忍足の髪。
そして唇に温かい感触。

「な、何して・・・っ」

背後から聞こえる大野くんの驚いた声。

「何って自分で聞いといて野暮なやっちゃなぁ」
「っ・・・はぁっ」

突然の事で息をするのを忘れて。
私は忍足の腕の中で息を整える。

「お前には立ち入る隙もないっちゅーことや」
「お前、わざと・・・」
「諦めて、はよ家帰り」

完全な忍足のペースに私も大野くんも何一つ抵抗出来ない。
大野くんは何も言い返せぬまま、そのまま踵を返して元来た道を戻っていった。

「大丈夫か?」
「忍足・・・何もここまでしなくても」
「ん・・・チャンスかなぁ、おもて」
「え?」

腰に回された腕が忍足の方に再び引き寄せられる。
右頬に忍足の手が触れる。そして真っ直ぐ見つめられて私は息を呑む。

「このままほんまに俺の女にならへんか」
「っ・・・」

顔が一気に熱を帯びる。
そんな私の反応を楽しむかのように忍足が耳元で囁く。





(そんな可愛い姿、他の誰にも見せたないわ)



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