帰路につこうと氷帝学園の門を通ってしばらくしたところで、壁にもたれる男の人を視界に捉える。

「大野くん・・・」

私の声に気付いた彼はゆっくり壁から背を浮かせ、こちらを向く。

「悪い、こんなところまで来て」

そう彼は他校の生徒で。
登校時間がたまたま重なっていたとかで私の事を知って、一目惚れだと告白された。
けど、私はその気持ちに応える事は出来ないとお断りした。
その彼が今こうやって私の目の前にいる。
恐怖と嫌悪が襲う。

「ごめんなさい、私あなたとは・・・」
「なんでだよ、絶対大事にするから」

そう言って急に掴まれる手。

「っ・・・やっ」

私はびっくりして、その手を振り払う。
そして逃げるように再び門の方へ向かった。

「おいっ！待てって！」

後ろから大野くんの叫ぶ声と追いかけてくる足音が聞こえる。

（やだ、怖い・・・助けて！）

ちょうどその時だった。
門から出てくる樺地の姿を捉える。

「樺地！ごめん、ちょっと匿って！」
「ウス」

私は樺地の後ろに回って隠れる。
樺地はそんな私を不思議そうに、でもいつもと変わらぬ表情で見ていた。

「何か・・・あったんですか」

普段と違う様子を察したのか、いつも無口な樺地が口を開く。

「ちょっと追いかけられてて」

そう言うと、樺地は何も言わず私の前にしゃがみ込む。
そしてさっきまで地についていた足が突然宙に浮く。
気が付けば、私は樺地に抱きかかえられていて。

「か、かっ、樺地？！」
「揺れるんで掴まっていてください」

返事する間もなく、樺地は私を抱えたまま走り出す。

「えっ、わっ・・・！」

予想もしていなかった展開に頭がついていかない。
とりあえず樺地の首元に腕を回してぎゅっと瞳を閉じる。
樺地はそのまま走り続ける。そしてしばらくすると揺れが収まって。
恐る恐る目を開けると、たくさんのお店と人が視界に入る。

「駅・・・？」
「ここなら人も多いですし、もし何かあっても助けてもらえます」

そう言って樺地はゆっくり私を降ろしてくれた。

「すみません、自分あまりうまく話せないのでこんな形でしか助ける事が出来なくて」
「樺地・・・」

いつも跡部の指示通りに動いて自分の意思を示さない樺地が、自分で考えて私を助けてくれた。
その事が無性に嬉しくて。

「ごめんね、巻き込んで」
「いえ。自分は来た道を戻って、追いかけてきていないか確認してきます」
「え、でも」

巻き込んで助けてもらった上に、そんな事までいくらなんでも申し訳なさすぎる。
けど樺地は私が言いたい事を察したようで。

「跡部さんに用事があるので、そのついでです」

本当にそうなのかもしれないけど、私に気を遣ってくれたのかもしれない。

「・・・ごめんね、ありがとう」

そう言うと樺地は少し微笑んだ気がした。



こ の 恋 、 き み 色

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