帰路につこうと氷帝学園の門を通ってしばらくしたところで、壁にもたれる男の人を視界に捉える。

「大野くん・・・」

私の声に気付いた彼はゆっくり壁から背を浮かせ、こちらを向く。

「悪い、こんなところまで来て」

そう彼は他校の生徒で。
登校時間がたまたま重なっていたとかで私の事を知って、一目惚れだと告白された。
けど、私はその気持ちに応える事は出来ないとお断りした。
その彼が今こうやって私の目の前にいる。
恐怖と嫌悪が襲う。

「ごめんなさい、私あなたとは・・・」
「なんでだよ、絶対大事にするから」

そう言って急に掴まれる手。

「っ・・・やっ」

私はびっくりして、その手を振り払う。
そして逃げるように再び門の方へ向かった。

「おいっ!待てって!」

後ろから大野くんの叫ぶ声と追いかけてくる足音が聞こえる。

(やだ、怖い・・・助けて!)

ちょうどその時だった。
門から出てくるジローの姿を捉える。

「ジローっ助けて、お願い!」
「あ、ちゃん!どうしたの?」
!」

名前を呼ばれて振り返ると、そこには大野くんの姿。

「っ、私あなたとは付き合うつもりないから」
「だからチャンスくれって」
「なになに〜どうしたの?」
「・・・誰だ、お前」
「俺?俺は芥川慈郎!アンタは?」
「は?!」

大野くんは「なんだこいつ」と言わんばかりの表情でジローを見る。

「だからアンタは誰?何してんの?」
「告白の返事、考え直してもらいにきたんだよ。だからお前には関係ねぇよ」
「へー!アンタもちゃんが好きなんだ!じゃあさ、好きなところ言い合いっこしようよ!」
「・・・は?」
「アンタが勝ったらちゃんと話していいよ。けど俺が勝ったら諦めて帰ってね」
「なんだよ、それ」
「自信ないの?ちゃんの事好きなのに?」
「・・・っ」

覚醒したジローは本当に恐ろしい。
次々と挑発するような言葉を並べる。
大野くんはそのペースに完全に飲み込まれている。

「じゃあ先にどうぞ!」
「・・・か、顔が可愛い」
「怒ったり笑ったり泣いたり、ころころ表情が変わるところ!」
「声が綺麗」
「透き通ってて綺麗だよね!俺ちゃんの声で起こされるの好きなんだ!」
「・・・スタイルが良い」
「細いのにボールいっぱい入ったカゴとかドリンクとか頑張っていつも運んでくれるんだよ!」
「おい。お前さっきから俺の言った事、補足説明してるだけだろ」
「あ、ほんとだ。ちゃんの好きなところ、こうやって話出来るの嬉しくてついつい!」

「私が恥ずかしいから、もうやめて!」そう言いたかったけど、2人の会話のテンポが早くて間に入るタイミングが掴めない。

「けど、アンタはちゃんの外見しか見てないんだね」

突然ジローの声が低くなる。
いつもと違うジローの様子にドキッとする。

「俺もっと知ってるよ、ちゃんの事。辛い事があってもみんなの前では笑顔で頑張ってるところ」
「・・・」
「誰よりも優しくて、けど時に厳しくて。みんなの支えになってるところ」
「・・・っ」
「まだまだあるけど、最後まで聞く?」

そう言ったジローは笑顔だけど、どこか・・・

「・・・もういい、帰る」

そう言い残して、踵を返して来た道を戻る大野くんの背中を見送って。
私はほっと胸を撫で下ろす。

「ジロー、ごめんね。ありがとう」
「全然だC!」
「いつも寝てる事が多いのに、ジローの観察力にはびっくりしちゃったよ」
「ん〜気が付けば目で追っちゃってるんだよね」

いつもの寝ぼけ眼じゃない、覚醒したジローの瞳はとても真っ直ぐで。





(言ったでしょ?好きだって)



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