帰路につこうと氷帝学園の門を通ってしばらくしたところで、壁にもたれる男の人を視界に捉える。

「大野くん・・・」

私の声に気付いた彼はゆっくり壁から背を浮かせ、こちらを向く。

「悪い、こんなところまで来て」

そう彼は他校の生徒で。
登校時間がたまたま重なっていたとかで私の事を知って、一目惚れだと告白された。
けど、私はその気持ちに応える事は出来ないとお断りした。
その彼が今こうやって私の目の前にいる。
恐怖と嫌悪が襲う。

「ごめんなさい、私あなたとは・・・」
「なんでだよ、絶対大事にするから」

そう言って急に掴まれる手。

「っ・・・やっ」

私はびっくりして、その手を振り払う。
そして逃げるように再び門の方へ向かった。

「おいっ！待てって！」

後ろから大野くんの叫ぶ声と追いかけてくる足音が聞こえる。

（やだ、怖い・・・助けて！）

ちょうどその時だった。
門から出てくる跡部の姿を捉える。

「跡部っ！」

私の表情や行動、そして背後から追いかけてくる男を視界に捉え、跡部は状況を瞬時に把握したようで、何も言わず私の腕を掴む。
そしてそのまま引っ張られて、私は跡部の後ろに立たされる。
目の前には跡部の背中。２人がやりとりする声だけが聞こえる。

「あん？なんだ、お前」
「お前こそ誰だよ」
「ハッ、いい度胸じゃねぇの、あーん？」
「俺はに話があるんだよ」
「あん？気安く名前を呼ぶんじゃねぇ」
「は？」
「お前、女のケツ追いかけ回して楽しいか？」
「なっ」
「そんなに女が好きなら２００人でも３００人でも紹介してやるよ」
「・・・は？」
「だがな」

掴まれた腕が再び引っ張られて。

「わっ・・・」

私は突然の出来事にバランスを崩し、そのまま跡部の胸に飛び込む。

「あ、あと・・・」
「こいつだけは渡せねぇ。さっさと諦めな」

跡部の台詞に大野くんは言葉を失っている様子だった。

「失せろ」

跡部の声のトーンが一気に低くなる。
見上げた先にあるその青い瞳は、静かに大野くんを睨みつける。
視線の先が自分でなくてよかった。そう思うくらいの緊張感と威圧感だった。

「っ・・・」

大野くんは何も言い返せぬまま、一歩二歩後退り、そのまま踵を返して元来た道を戻っていった。

「あ、跡部・・・」
「あん？」

しかめっ面の跡部がこちらを向く。

「あ、ありがとう」
「ああ、構わねぇよ。本当の事を言ったまでだ」
「え？」

ふっと笑みを浮かべる跡部に顔が一気に熱くなる。
後退ろうもするも背中にはがっちり腕が回されていて、身動きが取れない。

「誰にも渡す気はねぇし、」



こ の 恋 、 き み 色

（逃すつもりもねぇよ）