「「「「「メリークリスマスっ!!」」」」」

クラッカーの軽快な音と共に始まった、氷帝学園テニス部レギュラー陣恒例のクリスマス会。
カラフルな三角帽子を被ったみんなは「待ってました!」と言わんばかりの表情。
何よりウケるのが、跡部と日吉が三角帽子を被っているという事。
もちろん最初は嫌がってたんだけど、忍足に「部長と次期部長になる自分らがチームの和を乱すん?」と言われ、しぶしぶ被る事になった。
本当二人とも負けず嫌いだよね。

「じゃあ早速、王様ゲームしようぜ!」

テーブルに並べられたお菓子を頬張りながら、誰よりもハイテンションな岳人が割り箸の束をみんなの前に差し出す。

「え、岳人!そんなの聞いてないんだけど・・・!」
「だって俺とジローが内緒で考えたゲームだし!」
「うんうん!おもしろそうでしょ!ちゃん!」
「・・・」

誰も褒めてないのに妙に誇らしげな岳人と、岳人と同じくらいにテンションの上がったジローに私は言葉も出なかった。

「王様になりゃいーんだよ」

右斜め前に座っていた宍戸がこちらを見ず、さらっと言ってのける。

「で、でも・・・どうやって・・・?」

(そんなの、青学の乾くんや立海の柳くんみたいなデータマンか、山吹のラッキー千石くんくらいしか無理じゃない?!)

「・・・んなもん、気合だ。気合」
「・・・」

(駄目だ、こりゃ・・・)

「まぁ、やってみるだけやってみ?」
「・・・うん」

右隣に座っていた忍足にそう言われ、しぶしぶゲームに参加する事にした。
というか、闘争心丸出しの跡部と日吉を目の前にして「やりたくない」なんて言う勇気はない。

「じゃあ、第一回戦!」

岳人が差し出した割り箸の束をみんなそれぞれ掴む。

「いっせーのーでっ!!」

その合図と共にみんなは一気に割り箸を引き抜く。
恐る恐る自分が引き抜いた割り箸の先を見る。
すると、そこには数字の“2”。

「やったー!俺、王様ー!」

自分の割り箸を確認していたみんなはその声に顔を上げる。
声の持ち主は岳人で、小さな子供みたいに大はしゃぎしていた。

「おい、お前まさか」
「バッ!ちげーよ!何も仕掛けてねーっつの!」

跡部の疑いの目に、岳人は必死に弁解する。

「まあまあ。折角のクリスマスなんやし、楽しくやろーや」
「・・・ふんっ」
「ほら岳人、命令し」
「お、おう」

(流石、忍足・・・大人と言うかなんというか・・・)

「じゃあ・・・1番が5番にケーキを食わせる!」

岳人の声にみんな静まり返る。

(よ、よかった・・・!助かった・・・!)

ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。
顔を上げると、自分の割り箸を見て固まってる2人。

「・・・おい、まさか・・・・」
「日吉・・・それ・・・」

日吉の隣に座っていた長太郎が日吉の異変を察知し、手にしていた割り箸を覗き込む。

「5番・・・」

長太郎の声に日吉がピクッと反応し、周りはざわつく。

「じゃあ1番は・・・」

自然とみんなの視線は跡部に向く。
跡部はワナワナと震えており、その様子にごくりと息を呑む。

「向日・・・お前・・・」
「は?!知らねーよ!」
「跡部さん、早くしてください」
「!?」

その声に今度はみんなの視線は日吉に集まる。

「さっさと終わらせて次にいきましょう。下克上です」

そう言った日吉の顔はほんのり赤くて。

「・・・そうだな。ほら、食え」

普段見慣れない光景に私は笑いを堪える。
跡部がケーキを突き刺したフォークを差し出す。
それが日吉の口に入った瞬間、みんなの緊張の糸が切れて爆笑の渦へと変わる。

「ぶっははははは!!」
「跡部が日吉にあーんってしたC!!かっわE!!」
「くくくっ」
「あははっ」
「お前ら、覚えとけよ!!」

顔を赤く染めた跡部の言葉は怖さも半減で、それすらもおもしろかった。



そうやって次々と繰り広げられていく王様ゲーム。
私は王様になる事も命令される事もなく、第三者としてゲームを楽しんでいた。
そして、このままゲームが終わると甘い考えを持っていたのが間違いでした。

「あ。俺、王様〜」

そう言って、手に持った割り箸を上下に振っていたのはジローで。
さっきまでのテンションが嘘のように下がりきったジローにみんな溜息をつく。

「ジロー、ほら命令せな」
「うん〜」
「こら!ジロー!お前寝るなって!」
「んん〜」
「『んん〜』じゃねーっつの!」

岳人が肩を揺らすが、ジローは段々と眠りに落ちていく。

「じゃあ〜3番と4番がチュー」
「「「「「は?!」」」」」

思いも寄らぬ王様の命令に全員が目を見開く。

(いやいや!それはマズイっしょ!!)

「お前もっとまともなやつにしろって!」
「・・・」

ジローを叩き起こそうとするが、完全に眠りに落ちてしまった。

「ど、どうする?」

向日の問いにみんなは静まり返る。
しかし、その静寂を打ち破ったのは意外にも宍戸だった。

「王様の命令なんだし、やるしかねーんじゃね?」
「そ、そうですけど・・・」

長太郎が少し困ったように返事をする。
いやいや、駄目ですって。私、4番ですから!!

(ちょ、頼むから誰か止めて・・・!!)

割り箸を握り締めてぎゅっと目を閉じた瞬間、跡部がフッと鼻で笑った。

「これが王様ゲームのルールだからな。お前ら全員異議はねーな?」

「なあ、

いきなり名前を呼ばれて、心臓が飛び出そうになる。
顔を上げて跡部を見ると、不敵な笑みを浮かべていた。

「お前、4番だろ」

跡部の言葉にみんなの視線が私に集まったのがわかる。

「なっなな・・・」

驚きを隠せない私に、跡部は自分の割り箸を私に見せた。
そこには“3”の文字。

「・・・っ!!」
「お前、態度でバレバレなんだよ」

そう言ってソファーに仰け反る跡部。
私は開いた口が閉まらなかった。

(え・・・ちょ、じゃあ・・・私・・・跡部とチューすんの?!)

「おい、跡部・・・それはさすがにまずくね?」
「あん?」
「いや・・・ほら、も一応女だし?」
「岳人、一応って何よ」
「一応は一応だろ!」

一応一応って私はれっきとした女だっつーの!!

「特別優しくしてやるよ」
「へ・・・、わっ!!」

岳人と言い合いしてたら、いきなり左腕を掴まれて引っ張られる。
気を抜いていた私の体は軽く持っていかれ、引っ張られるがまま跡部の膝の上に座らされた。
いきなりのことで頭が真っ白になる。

「あああああ、跡部?!ちょっ、タンマ!!」
「あん?なんだよ。まさかお前ファーストキスもまだとか言うんじゃねぇだろーな」

まさかのまさか。大当たりです、跡部さん。
だってファーストキスって好きな人とするもんでしょ?!
私は跡部の向かい側に座っていた長太郎をチラッと見る。
私と目の合った長太郎は一瞬肩を揺らしてすぐ目を反らした。
ファーストキスは好きな人と、って言っても片思いじゃどうにもならないけど。

「俺様が初めてで、光栄に思うんだな」

そう跡部が言った瞬間、顎を軽く持たれ跡部の方を向かされる。
そして息を吸う間も無く、跡部の顔が近付いてきて・・・
ぎゅっと目を瞑った瞬間だった。
体がいきなり後ろに引っ張られて、バランスを崩した私の体は誰かの胸に飛び込んでいた。
温かくて、私の好きな香りがふわっと鼻をくすぐった。
頭をしっかり抱きしめられていた私は顔を動かす事も出来なかったけど。
それが長太郎だって事はすぐにわかった。
目の前でキラキラ揺れる十字架のペンダント。

「あ、の・・・すみませんっ・・・俺・・・っ!」
「おせーんだよ」

そう言って跡部は口端を上げ、ソファーにもたれかかる。

「はー!マジ、ハラハラしたぜ!」
「む、向日さん・・・?」
「ほんっと、お前心臓にわりぃんだよ」
「え、宍戸さんまで・・・」
「長太郎、、自分らバレバレやで」

その言葉に、私の顔が熱を帯びる。

(それってつまりは・・・長太郎も私の事・・・)

「もしかして、先輩達・・・わざと・・・」
「ちゃうちゃう、それはない」
「たまたまだ。まあ、まさかこんなに上手くいくとは思ってもみなかったがな」
「ちゅーわけや、。どうや?今の気分は?」
「・・・」
・・・さん?」
「・・・や、ごめん、跡部みたいに立ったまま気絶出来ないかと思って」
「ぶっおま、それ真顔で言うなよ」

隣で岳人が大笑いする。

「あーん?いい度胸じゃねーの。俺様のキスで失神させてやろうか?」
「ひっ、ごめんなさい!冗談です!」
「だ、駄目です!」

跡部の言葉と同時に長太郎の腕の力が強まる。

「跡部それくらいにしとき。なんや鳳が可哀想やわ・・・」
「まあ、そろそろ時間も時間だし、お開きにするか」

宍戸の言葉に「そうですね」と日吉が席を立つ。

「片付けは俺らでやっとくから、鳳。を駅まで送ったり」
「え、でも」
「もう日も暮れたし暗い夜道、姫さん一人で歩かせたら跡部みたいなんに捕まるかもしらんで?」
「あーん?忍足。それはどういう意味だ」
「おー怖い怖い」

眉間に皺を寄せた跡部に、降参と言わんばかりに両手を上げる忍足。

「それに2人でちゃんと話した方がええやろ?」
「「あ・・・」」

私達は顔を見合わせる。

「ほら、長太郎!」
「わっ」

宍戸が投げた荷物を長太郎はびっくりしながらもしっかり受け取る。

「・・・すみません!また何かでお返しします!」

長太郎はみんなに一礼して「先輩、行きましょう!」と私の手を引っ張った。

「おう、またな」
「気ぃつけて帰りや」

長太郎が掴む手は力強くて、後ろから聞こえたみんなの声に返事する余裕すらなかった。
部室を出て、門に向かう。
長太郎は黙ったまま私の手を引いてずんずん前に進む。
いつもの長太郎の雰囲気と違う。掴まれた手から緊張感が伝わる。
私は何も言えず、そのまま門を通り越す。
しばらくした人気のないところで長太郎を呼び止めた。

「ちょ、長太郎・・・長太郎!」
「っ、はい!」

私の声に驚いた様子で長太郎が振り返る。
と同時に我に返ったのか「あっ・・・すみません!」と私の手を離した。

「大丈夫?」
「すみません、俺・・・ゲームの邪魔して・・・」
「え」
「どうしても見ていられなくて・・・俺、ずっとさんが好きだったんです!」

そう言った長太郎は真っ直ぐ私を見据えていて。その頬は少し赤くなっていた。
恒例のクリスマス会からこんな展開になるだなんて誰が想像しただろうか。
驚きと恥ずかしさと嬉しさで気持ちの整理がつかない。
私は整わない気持ちを隠すように長太郎の手を手に取る。

「え、さん?!」

温かい手、気持ちが落ち着く。

「私も長太郎がずっと好きだった」
「っ・・・」

そう言った途端、背中に腕を回され強く抱き寄せられた。

「ちょ、長太郎・・・?!」
「すみません・・・嬉しくてつい」

長太郎の表情を見る事は出来なかったけど、きっと私と同じで顔を真っ赤にしているんだろう。
長太郎の鼓動が早くなったのがわかったから・・・
そっと長太郎の背中に手を回して、静かに目を閉じる。



M e r r y  X ' m a s

(ずっと長太郎の温もりを、優しい香りを、感じていたい)



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