「みんな動きが悪すぎるよ」
「そこ!フォームのキレが悪い!」
「レギュラーはグラウンド20周いくよ」
「なあ、ジャッカル」
「ん?」
「今日の幸村くんいつもに増して厳しくね?」
「そうだな」
どっちかってーと、いつもは真田がみんなに指示を出して、それを幸村くんがベンチから静観してるって感じなんだけど。
今日のこの真逆の光景に違和感を覚える。
「丸井、ジャッカル、暇そうだね。グラウンド30周するかい?」
名前を呼ばれ、ハッと我に返る。
こちらを見据える幸村くんとばっちり目が合う。
「やべ・・・」
そう思ったところにまさかの救世主。
「すみませーん!遅れました!」
と、へらへらしながらコートに入ってくる赤也。ナイス赤也!と、心の中でガッツポーズする。
と、同時に俺達から赤也へと移る幸村くんの視線に、ああ、赤也ご愁傷様・・・と手を合わせる。
「赤也!お前はいつもいつも!」
幸村くんより先に噴火した火山のように怒る真田。
「違うんスよ!今そこで先輩に会ったんスけど、あの人デビル化してて!」
「「「・・・は?」」」
赤也の訳のわからない言い訳にレギュラー全員がフリーズする。
「あ!アンタら信じてないっスね!本当なんスよ!目が真っ赤で!」
「・・・切原くん、ちょっとデリカシーがないですね」
「え?」
「いや、だいぶじゃろ」
「ええ?!」
柳生と仁王が溜息をつく。
赤也は未だ訳がわからぬといった様子で柳生と仁王を交互に見る。
そんな中、静かに柳が口を開く。
「幸村、いいのか」
「ああ・・・問題ない」
「さあランニングを始めるよ」そう言って真っ先にコートを出る幸村。
残されたレギュラー陣に異様な空気が流れる。
「が原因の確率・・・100%」
「・・・ですね」
「プリッ」
その後の打ち合いでも幸村くんの様子はおかしかった。
いつもより攻撃的なプレイで次々と相手を負かしていく。
「幸村くん、プレイスタイルにまで影響出てんじゃん・・・」
「ああ、いつもよりゲーム展開のスピードが速いな」
「なんからしくないっすね」
鼻を擦りながら試合の様子を見つめる赤也。
「ああ、そうだな」と返事をして俺はガムを膨らました。
「みんなお疲れ様」
そして幸村の一声で今日の練習が終わりを告げる。
ぞろぞろとコートを後にする部員達。
俺はその背中を見送り、ベンチから腰を上げる。
「幸村」
「柳か。どうしたんだい」
「私情を持ち込むのはあまりよろしくないな」
その言葉に一瞬幸村が目を見開いた。
「・・・」
「今日のお前の様子、試合展開のスピード、どれもお前らしくなかった」
「お前は隠していたつもりかもしれないが」そう付け足すと、幸村は悲しげに笑った。
「さすが柳・・・チームメイトながら恐ろしいよ」
「大丈夫なのか?」
「ああ、ちゃんと全国大会までには整えておくよ。これ以上みんなに苦労はかけれないからね」
「いや、それもそうなんだが・・・」
「・・・もう終わった事なんだ」
ぽつりとそう告げると同時に、生温い風が俺達の間を通り抜ける。
「何があったかまで聞くつもりはないが彼女はいつもお前を支えていた。それだけは認めてやってもいいんじゃないか」
「ああ・・・わかってる」
そう言い残して幸村は俺に背を向けコートを後にした。
「駄目だなぁ・・・」
いつも通り振る舞ってるつもりだったけど、やっぱりいつも一緒にいるみんなには隠し通せなかった。
「何があったかまで聞くつもりはないが彼女はいつもお前を支えていた。それだけは認めてやってもいいんじゃないか」
そう、俺とは幼馴染だった。
幼い頃からはずっと俺の夢を応援してくれていた。
瞳を輝かせて、いつもコートの外から応援してくれていた。
俺はそんなを見て、もっと上へ行きたい、もっとの喜ぶ顔が見たいとそう思った。
けど、中学生になって王者立海大と言う名を背負い戦う事で気が付けば俺の中にはプレッシャーと責任感が占めて。
そんな大切な事も忘れてしまっていたんだ。
駅構内で倒れて入院した時もはずっと傍にいてくれた。当たり前になっていた。
いつだっては俺の夢を応援して支えてくれる。過信してたんだ。
そして俺の病気のせいでみんなに苦労をかけた事、王者として負けられない全国大会。
目の前の事で精一杯だった俺はの本当の気持ちに気付けずにいた。
いや、気付こうともしなかった。愚かな自分に反吐が出る。
俺と一緒にいたら、これからも自分の気持ちを押し殺して無理をする。
優しい君だから、もういい加減俺から解放してあげなきゃ可哀想だ。
俺は器用な人間じゃない。
テニスもも両方大切に出来るような器用な人間じゃないから。
これ以上を傷付けないために、俺が自ら選んだ。
「こんなことなら・・・手術なんて成功しなきゃよかったんだ」
あの言葉はきっかけに過ぎなかった。
君の本心じゃない事くらいわかってた。
俺の気を引こうとして口走ってしまった事だなんてわかってた。
けど、そんな言葉を吐かせてしまうまで追いつめてしまってる事が悔しかった。
泣きじゃくる君を見たかったわけじゃない。
俺のせいでそうさせてしまった。
だから君が謝る必要なんてどこにもないんだ。
無理をさせてごめん。
我慢をさせてごめん。
傍にいてあげれなくてごめん。
本当は・・・今でものことが好きなんだ。
思い出すのはあのきらきらと瞳を輝かす君。
さ
よ
う
な
ら
(見上げた空の夕暮れはきらきらと、とても綺麗だった)