「なあ、それ取ってくんね」
「自分で取りなよ」

そう言いつつも、私はブン太が指差したタコさんウィンナーを小皿に取り分ける。

「やっぱの母ちゃんが作る料理はうまいな!も少しは見習えよな」

ウィンナーぐらいでそんなに喜ぶ?
ブン太は幸せそうな顔をしながら取り分けたウィンナーを口に運びながら、憎まれ口を一つたたく。
ってか、食べるか、喋るかどっちかにしなよ・・・

「うるさいな。ってか折角の花見なんだから花を見なさいよね!」
「花なんか見て何が楽しいんだよ。花より団子だろい」

そう言って頭上の桜には目もくれず、ブン太は次々と料理を口に運ぶ。

「はぁ・・・」

そもそも食い意地の張ったブン太と花見に来たのが間違いだっかも・・・

「・・・デブン太」
「あ!?誰がデブだよ!」

ぼそっと言い放った悪口に、ブン太は眉間に皺を寄せる。

「あんたしかいないでしょ」
「俺のどこがデブなんだよ!お前のがデブだろーが!」
「は!?何それ!最低!」
「最低なのはお前だろい!」
「やっぱブン太となんかお花見に来たのが間違いだったわ!」
「そりゃこっちの台詞だっつの!あー胸くそわりぃ。帰る!」
「さっさと帰れば!清々するわ!」

怒ったブン太は立ち上がり、早々と桜並木に消えていった。
私は綺麗に咲き誇る桜の下で一人ぼっちになった。
きっかけはいつも些細な事。
しまった、と思った時にはもう時すでに遅し。
折角二人で花見に来たっていうのに・・・

「はぁ・・・」

小さく溜息を漏らして空を見上げる。
はらはらと綺麗な桜吹雪が舞い散る。

(何やってんだろ・・・)

「ねぇちゃんどうした?彼氏にふられたかぁ?ヒック」

ぼーっと空を眺めていたら、いきなり漂ってきたアルコールの匂い。
慣れない匂いに反射的に体が拒否反応を示す。
振り向けば真横には知らないおじさん。
かなり酔ってるみたいで顔は赤く火照っていて、目が虚ろになっている。
咄嗟にやばいと感じたが・・・すでに遅かった。

「おじちゃんも一人なんだよぉ〜ヒック。一人身同士仲良く花見でもしよ〜や」

そう言っていきなり肩を抱き寄せられる。

「っ・・・」

アルコール臭い・・・!
ってか、気持ち悪い・・・!

「やっ・・・はなして!」
「い〜じゃん固い事言わずに、ねぇちゃんも飲もうぜ」
「触らないでってば!」

本当、今日はついてない。
花見に来てる周りの人達もこの状況に気付いてるくせに”お気の毒に”といった様子で見て見ぬふり。
面倒事に巻き込まれたくないのはわかるけどさ・・・!助けてくれたっていいじゃない・・・!

「っ、はなし「はなせっつってんだろ、おっさん」

突然、背後から聞こえた声。
それはいつもより低くて、だけどそれは紛れもない・・・

「ブン太・・・」

ブン太は私の肩に回したおじさんの腕を掴んでいた。

「あぁ?誰だ、お前」
「お前こそ誰だよ。俺の女に気安く触んな」

ギリッ

肩の辺りから聞こえた鈍い音。

「っつ・・・!」

状況から直感的におじさんの腕を掴むブン太の手が強まったのがわかった。

「失せろよ」

ドスの聞いた声が効いたのか、はたまたブン太に掴まれた腕が痛かったのか・・・
おじさんは小言を言いながら、フラフラと私達の元から立ち去った。
遠退くおじさんの背中を見送って、ほっと胸を撫で下ろす。

(た、助かった・・・)

そう安心したのも束の間。

「ぼーっとしてんじゃねぇよ」

ブン太の怒りの矛先が今度はこっちに向けられる。
「ありがとう」と、そう言おうとしたのに。
喧嘩ごしで話しかけてくるブン太にカチンときた私はまた負けじと言い返してしまう。

「してないってば!」
「助けてもらっといて礼も言えねーのかよ」
「誰も助けてなんて言ってない」
「は?!可愛くねぇ女!」
「うるさいな、ほっといてよ!」

ほら、また素直になれない。同じ事を繰り返してしまう。

「ほっとけられっかよ」
「・・・え?」

赤い髪の毛をガシガシ?きながら目線を逸らすブン太。

「あーもーマジ調子狂うぜ・・・慣れねぇ事は言うもんじゃねーな」

顔は髪色と同じくらい真っ赤で・・・
うそ・・・心配して戻ってきてくれたの?
私、あんな酷い事言ったのに・・・

「ご・・・ごめん、ブン太・・・さっきは酷い事言って」
「ん・・・お互い様だろい」
「何、この手・・・」

いきなり差し出された手。
意味がわからなくて、その手とブン太の顔を交互に見比べる。

「喧嘩の後は仲直りの握手だろい」
「・・・え、バカ?」
「は?!なんだよ、人が折角仲直りしようとしてんのに!」

まさかブン太が“仲直りの握手”だなんて言うと思ってなかったから。
可笑しくて、ついつい頬が緩む。

「何、笑ってんだよ」
「っごめんごめん」

差し出された手をそっと握る。



桜 舞 い 散 る 中 で

(君と仲直りの握手)



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