「あ、ちゃん、みーっけ!」
「芥川先輩!こんにちは」

校舎の屋上。そこにある塔屋の上。
ここは私達だけが知っている秘密の場所。

「めずらしいですね、芥川先輩が後だなんて」
「よっと!朝練後、そのままベンチで寝ちゃってさ。誰も起こしてくんなくて!」

芥川先輩は梯子を登りきり、少し膨れっ面になりながら私の横に座る。

「でも昼休みに間に合ってよかった!」

そう言いながら、仰向けになる先輩。
黄金色の髪が風に靡いてきらきら光る。
その様子を見て、芥川先輩と出会った頃の事を思い出した。
あれは1ヶ月くらい前の事。
私はこの屋上の塔屋の上に登って、ぼーっと空を見上げるのが好きだった。
屋上自体、立ち入り禁止で鍵がかかっていたんだけど、最近鍵が壊れている事を知って。度々ここを訪れるようになった。
けど、ある日屋上に来たら先客がいて。

「アンタ、誰?」

寝起きなのか、寝ぼけ眼で欠伸をしながら声を掛けてきた男の子。
それが芥川先輩との出会いだった。

「え、あ、私・・・」

立ち入り禁止のこの場所に誰かいるなんて思ってもみなかったから。
突然の事に反応出来ないでいると、その事を察したのかさっきまで欠伸をしていた彼は突然にかっと笑う。

「わりぃわりぃ!俺以外にもここにくる子がいるなんて思いもしなくてさ!」
「あ・・・」
「俺、3年の芥川慈郎!アンタは?」

突然のテンションの高さに戸惑いつつも、私は自分の名前を名乗った。

「わ、私は1年のです」
「アンタもここが好きなの?俺ここで空を見上げるのが好きでさ!」

「まあ、いつもそのまま寝ちゃうんだけど」そう言いながら笑う彼。
太陽の光に照らされて、きらきら光る黄金色の髪の毛が綺麗だなと思ったのが第一印象。

(・・・ってあれ?芥川慈郎・・・?)

聞き覚えのある名前に、ハッと我に返る。

(・・・芥川慈郎って・・・まさか・・・)

「あの・・・!もしかしてテニス部の人ですか?」
「えっそうだけど、俺の事知ってんの?!」

やっぱり!どこかで聞いた事がある名前だと思った。
うちのテニス部は全国レベルの強さで。その上レギュラー陣に至っては美形揃いって誰かが言ってた。
でも、テニスコートの周りはいつも人だかりがすごくて。
実際この目でレギュラーの人達を見た事はなかった。

「はい、顔は知らなかったんですけど、名前だけ・・・」

そう言うと、芥川先輩は向日葵が咲いたみたいに笑った。

「えへへ、嬉Cー!俺ってばもしかして有名人?!」

一目惚れだった。
その屈託のない笑顔に私は心奪われて。

キーンコーンカーンコーン。

「「あ」」

思わず声が揃う。
先輩と目が合って、2人して笑う。

「じゃあ、お先失礼しますね」

本当は行きたくなかったけど、チャイムが鳴ってしまってはどうしようもない。
踵を返して扉へ向い、ドアノブに手をかけた瞬間。

ちゃん!また明日」

後ろから思いもよらぬ言葉が飛んできて、振り返る。
そこには笑顔で手を振る先輩の姿。
私は顔に熱が帯びるのがわかって、それを隠すように顔の前で手を振った。
それからほぼ毎日のように昼休みにここに来ては、先輩と他愛ない話をするようになって。
ここは芥川先輩と一緒に過ごせる、私にとって特別な場所。

「ねえ、ちゃんも一緒に寝よ?」
「え?わっ・・・!」

ぼーっと思い出に浸っていたら、突然腕が引っ張られて。
気を抜いていた私はそのまま後ろに倒れる。
受け身を取る余裕もなく咄嗟に目を瞑ったが、体に痛みが走る事はなかった。
ゆっくり目を開けば、目の前に広がるのは青い空。

「・・・きれー」
「でしょ!」

横を向くと芥川先輩の顔。頭の下には先輩の腕。つまりは腕枕状態で。
自分の置かれている状況にやっと気付く。

「あっ・・・」
「俺さ」

びっくりして起き上がろうとした瞬間、芥川先輩の声に動きが制される。

「おじいちゃん、おばあちゃんになっても、ちゃんとこうしていたいなと思って」
「え・・・」
「なんて」

私が起き上がる前に芥川先輩が先に起き上がる。
思考回路が停止する。先輩の言葉の意味が理解出来ない。
そのまま、先輩が私に覆い被さる。腕も押さえつけられて、身動きが取れない。

「プロポーズみたいになっちゃったけど、俺と付き合ってくんない?」
「へ・・・え・・・ええ?!」
「はは、顔真っ赤っか。すげーかわE」
「せんぱ・・・」
「好きなんだ」

(・・・うそでしょ?)

目の前にはあのきらきら輝く黄金色の髪とそして・・・





( 大 好 き な 先 輩 の 笑 顔 )



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