「どうしよう!!」
「っ!!びっくりしたぁ・・・」
「どないしたん、そんな大声出して」

いきおいよく部室のドアを開けば、部室を飾り付けしていたみんなの視線が一気にこちらを向く。
驚かせて申し訳ないと一瞬思ったが、今の私はそれどころではない・・・!

「跡部の誕生日プレゼント用意出来なかった!」
「は?2週間もあっただろ?」
「プレゼントなんて、なんでもいいじゃねーか」

そう。向日の言う通りちょうど2週間前、跡部のサプライズ誕生会をレギュラーのみんなとマネージャーの私で企画した。
そして、それぞれ誕生日プレゼントを用意しようという事になったんだけど。
私はその誕生日プレゼントを何も用意出来ないまま今日を迎えてしまった。
忙しかったとか、忘れていたとか、そういうのではなくて。
ただ悩みすぎて何も決めれなかった。
だって跡部は跡部財閥の息子で、欲しいものはなんだって手に入る。
跡部が喜んでくれそうなもの、考えても何も思い浮かばなくて。
気が付けば誕生日当日になってしまった。
宍戸が言うように適当に選べばいいのかもしれない。
けど好きな人へのプレゼント、適当に選ぶなんて出来ないし・・・出来ればしたくない。
まあ、片思いだから跡部からしたら適当だろうが厳選しようが一緒なんだろうけど。

「ああ、どうしよう。みんな何にしたの?」
「俺は駄菓子詰め合わせ!」
「岳人・・・お前小学生かよ」
「なんだよ!じゃあ宍戸は何にしたんだよ!」
「俺は最新のグリップテープだぜ」
「え!もう新しいの出てんの?!」
「おい、ジロー開けるなよ!プレゼントなんだからよ!」
「宍戸のケチー!あとで跡部に見せてもらお!」
「ところでジロー、その脇に抱えてるのなんや?」
「あ、これ?安眠出来るひつじさん枕!これで跡部も俺と一緒にすやすや眠れるC!」
「いや、ジロー。そんな跡部の姿、想像つかんし、したくないわ」

私の質問にみんなわいわいとプレゼントの見せ合いが始まる。
誰一人用意していない人はいない。自分でした質問が余計に自分を追い詰める。

、こっち来てみ」
「え?」

プレゼントの見せ合いを遠巻きに見ていると忍足が手招きして私を呼ぶ。
なんだろうと招かれるまま、忍足の方へ足を運ぶ。

「上向いて」
「上?こう?」
「そのまま動かんといてや」

首に何かが纏わりつく、くすぐったい感触。

「はい。これでどうや」
「何これ」

首元を触るとリボンのようなものが巻き付いている。

「ほら、よくあるやろ。私がプレゼントっちゅーやつ」
「は?!」

忍足はいたずらそうに笑みを浮かべる。

「わ!ちゃんかわEー!」
「仔猫みたいですね!」

その様子に気付いたジローと長太郎がまじまじと私を見る。

「や、やめてよ!そんな恥ずかしい事出来ないし!」
「けどプレゼントないんやったら、あとはこれしかないやろ?」
「う・・・や、でも私なんかプレゼントされてもいい迷惑でしかないし」
「は?」
「え?」

私の言葉に部室内が急に静まり返る。
不思議に思って辺りを見渡すとみんなが呆気にとられた表情でこちらを見ている。

(え、何?私、なんか変な事言った?)

「・・・マジか」
「報われねーな」
「さすがに同情するわ」

それぞれの口から放たれる呆れたような台詞。

「え、どういう「あ、そろそろ監督との話終わる頃やな。俺ちょっと様子見てくるわ」
「おう、侑士頼んだぜ!」

私が口を開いた瞬間、忍足が被せるように言葉を放つ。
そしてそのまま部室を出てった。
この短時間で何が起きたのか自分でもよくわからなかったが、首元にはヒラヒラと赤いリボンが巻き付けられたまま。
こんなの着けて可愛い事言えるキャラじゃないのは自分が一番よくわかっている。
外してしまおうと手をかけた時だった。
誰かに手を掴まれ、びっくりして顔をあげるとそこには優しく微笑む長太郎が立っていた。

「折角ですし、そのままでいましょうよ。似合っていて可愛いですし、きっと跡部さんも喜びますよ」
「え、でも」
「パーティー感もありますし!」

「ね?」と付け足して微笑む長太郎を目の前にして、それ以上何も言えなくなって。
私は諦めてそのまま手を下ろした。

(まあ、長太郎の言う通りパーティーのお飾りと考えればいっか)

「ほらよ。の分」

そう言って横から宍戸がクラッカーを差し出す。

「あ、ありがとう」
「そろそろ来るんじゃね?!スタンバろーぜ!」
「樺地が持つと、なんかクラッカーもすげー小せぇな」
「マジマジ!ミニチュアみたいだC!」
「おい、潰すなよ樺地」
「ウス!」

そんな他愛ない会話をしていた次の瞬間、ガチャと言う音と共に部室のドアが開く。

「せーのっ!」
「「「「「跡部ハッピーバースデー!!」」」」」

クラッカーの音と共に舞い散る紙飾り達が跡部に降り注ぐ。
跡部は突然の出来事に驚いた表情の後、髪の毛や体に絡まる紙飾りに顔をしかめる。

「ああん?なんだ、お前ら」
「今日自分の誕生日やろ。俺らからのささやかなサプライズパーティーや」
「跡部ー!これ!俺からのプレゼント!」
「俺はこれな!」
「跡部さん、おめでとうございます!」

跡部が状況を掴めていない中、みんなからの怒涛のプレゼント攻撃が始まる。
みんなが跡部を取り囲む。
そんな普段あまり見られない微笑ましい光景に私は第三者として楽しんで見ていた。
そう私はすっかり忘れていた。
自分の首元に巻き付けられたリボンの事を。

「おい、。その首のリボンはなんだ?」

開封されたプレゼントの包装紙やリボンを邪魔にならないように掻き集めて、片付けていた時だった。

「え・・・あ、これは・・・パ、パーティー感出るかなーみたいな」

長太郎に言われた事をそのまま跡部に返す。
忍足が言うような台詞をサラッと言えるような勇気なんてなかった。
冗談っぽく言えたら、笑いの一つでも取れただろうに。
本当機転が利かない自分に嫌気がさす。

「ふーん。そういう事か」
「え?」

跡部は私の首元に巻き付いたリボンを見つめて、そして触れる。
目の前には整った跡部の顔。伏せた瞳。

(睫毛長っ・・・ってか、近っ・・・!!)

今自分が置かれている状況に気付いて後退ろうとするもリボンを掴まれていて動けない。
顔を上げた跡部と目が合う。青い瞳に私が映る。

「お前がプレゼント、そういう事なんだろ?」

不敵な笑みを浮かべる跡部。
頭が真っ白になって何も言い返せない。

「ありがたく受け取ってやるよ」
「っ・・・!ちょ!待って・・・」
「あーん?もう待たねぇよ」
「ちょ、あの!え、も、もう?」
「・・・お前本当鈍感だな」
「だろ?俺も跡部に同情してたところ」
「跡部のアプローチにここまで気付かんのも逆におもろいけどな」

向日は溜息をつき、忍足は笑ってこの様子を見ている。
え、それって・・・だってあの跡部だよ?
あの跡部が私の事・・・いやいや!そんなはずない!
これは私の片思いなんだから!

「お前ここに入部してからずっと俺の事好きだったろ」
「な、え!!なんでそれ!!」

自分の口から出た言葉にハッと我に返り、急いで口に手を当てる。

(私の馬鹿!みんなの前で自分からバラしてどうすんの!)

「あれで隠してるつもりか?」
「ちなみに俺達にもな。バレバレやで」

うそでしょ?!こんな恥ずかしい事ある?!
なんでバレたの?!たまに跡部を見ていたのが悪かった?!
対応も他のみんなと相違なくこなしていたはずだし・・・
頭を抱える私を見て、みんなが笑う。ベンチで眠るジローを除いて。

「ここまでくると、もうコントじゃねぇか」
「可愛らしいですね」
「けどよ、跡部も知ってたなら、なんで今まで何も言わなかったんだよ。周りくどいやり方なんてお前らしくねぇ」
「あん?この氷帝テニス部率いる俺様が部内に私情を持ち込むわけにはいかねーだろ」
「なるほどな。で、全国大会も終えて引退するのを待ってたっちゅーわけか」
「まあお前の心移り防止と男除け防止に軽くお前にアプローチしていたんだが、ここまで気付かねぇとはな」
「それって確かに彼氏彼女という明確な関係ではないですが、結局私情入ってるん「日吉!!」

日吉の言葉に長太郎が咄嗟に口元を抑える。

「あーん?日吉、言うじゃねーの」
「なになに〜どうしたの〜」

日吉と跡部の間で火花が散りそうになった瞬間、ジローが寝ぼけ眼で間に入る。

「ジロー、起きたのか」
「跡部とが結ばれたっちゅーわけや」
「え!跡部とちゃん両思いなの?!マジマジ?!すっげー!!」

『両思い』

ジローの言葉にパニック状態だった頭が急に冴える。
そして顔が一気に熱を帯びるのがわかった。

「なんや今日は色んな意味でおめでとうやな」
「本当ですね!」
「もう何の祝いかわからないじゃないですか」
「まあ若、いーんじゃねーの?めでてぇ事には変わりねぇし」
「俺達もおもしれーもん見れたしな!」
「まあ、あとは2人きりの時にゆっくりどうぞ」
「う、忍足・・・!」
「なんや自分、なんちゅー目で見るんや」

苦し紛れに忍足に助けを求める。

「忍足がこんなアイデア提案するから大変な事になった・・・!」
「なんや嬉しいやろ?」

そりゃ嬉しくないわけじゃない。
好きな人と両思いになれて嬉しくないわけじゃないけど・・・!
この恋は私の片思いで終わると正直諦めていたから。
この展開をどう受け入れていいのか、気持ちが全く追いつかない。

「あーん?お前は俺様のもんだろ。他の男に助け求めるんじゃねーよ」

突然首元に跡部の腕。そして耳元で聞こえる跡部の声。

「跡部その辺にしたり。真っ赤で今にも噴火しそうやで」
「ほんと真っ赤っか!かわE〜!」
「じゃあ誕生会の続きすっか!乾杯しよーぜ!」

向日に「ほら!」とジュースの入ったコップを渡される。

「あ、ありがと」
「ほな、自分に頼むわ」
「え・・・?」
「跡部に言う事あるやろ?」
「あ・・・」

ジュースの表面に波面が出来る。
コップを持つ手が少し震えているのがわかった。
心臓がうるさい。ゆっくりと振り返って跡部を見る。

「あ、あの・・・」
「あん?」
「ずっと大好きでした!」

跡部の瞳を見て言う勇気はなかったから。
コップを握りしめて、ぎゅっと目を瞑って自分の気持ちを口にした

「ぶっ!!」
「ちょ!!」
「あはははは!!」

その瞬間、後ろから大笑いの渦。

「え?!」
、ほんま自分おもろいな。『誕生日おめでとう』って言うてもらおう思ったんやけど」
「は?!何それ?!忍足にはめられた!!」
「いや、勝手に勘違いしたの自分やん」
「いや!!もう無理!!」

死ねる!!恥ずかしさと馬鹿すぎて死ねる!!
なんで勘違いしたの!穴があったら入りたい!!

「フッ、ハーハッハ!」
「あ、跡部?」
「最高の誕生日プレゼントじゃねーの、あーん?」

そう言って笑う跡部を見て、やっぱり跡部が同じ気持ちでいてくれた事を嬉しく思う。

「ほな、改めて乾杯しよか!」
「おう!跡部も飲み物持ったか?」
「ああ」



乾 杯

(誕生日おめでとう、跡部!)



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