アンタを手に入れるためなら、俺は悪魔にだってなる。
イ ー ヴ ル
「先輩」
部活が終わり、静まり返った部室でテニス部のマネージャーである先輩は一人黙々と仕事をしていた。
先輩の前には山積みのタオル。それを一枚一枚丁寧に畳んでいた。
「あれ?赤也まだ帰ってなかったの?」
俺に気付いた先輩がタオルを畳む手を止める。
「トリックオアトリート」
「え?」
「だから、トリックオアトリート。今日はハロウィンっすよ」
「ああ!もう31日なんだ」
そう言って、タオルに視線を戻した先輩は再びその手を動かし始める。
先輩の瞳に俺は映っていない。
酷くもどかしく、腹立たしい。
「お菓子、くださいよ」
「ごめん、赤也・・・今日お菓子持ってきてないんだ」
「丸井先輩にはあげてたじゃないっすか」
「あの飴が最後だったんだ、本当にごめん・・・」
嘘ばっかり。
丸井先輩だからあげたんだろ?
アンタの瞳には丸井先輩しか映ってないんだろ?
こっち向けよ。
俺 を 見 て
バンッ!!
静かな部室に鈍い音が響き渡る。
俺は先輩の気を引きたくて隣にあったロッカーを思いっきり殴った。
手を離すとロッカーの扉はへこんでいた。けど、そんな事どうでもよかった。
先輩が俺を見てくれるなら。
「あ・・・か、や?」
案の定、先輩の瞳に俺が映る。
「・・・先輩、知ってます?」
俺は先輩にゆっくり歩み寄り、その前に立った。
「ど・・・した、の?」
何がなんだかわからない、といった表情で俺を見つめる先輩。
普段なら可愛いと思えるその表情も、仕草も、全てが癇に障る。
丸井先輩にもそんな表情・・・見せてんだろ。
無性にむしゃくしゃする、むかつく。
俺は先輩の手を掴んで、いきおいよく自分の元に引き寄せる。
「う、わっ!」
先輩は軽くて、いとも簡単に俺の元に飛んでくる。
「お菓子をくれないといたずらされちゃうんスよ?」
俺は先輩の腰に手をまわし、引き寄せて、そのまま唇を奪った。
「・・・んんっ!」
嫌がっても止めてやんない。
舌を入れて荒く、掻き回してやる。
優しくなんてしてやんない。
―――これは俺を見てくれなかった先輩への罰―――
腰に回していた手を解くと、先輩はそのまま俺の足元に崩れ落ちた。
聞こえるのは先輩の荒い息遣いだけ。
俺はその様子を静かに眺める。
狙った獲物は逃がさない。
俺のモノになるまで、追いかけまわしてやる。
「覚悟しておいてくださいよ、先輩」
アンタを手に入れるためなら、俺は悪魔にだってなる。