暑い・・・!!
なんでこんなに暑いわけ・・・!?
夏休み真っ最中のこの暑い中。
わざわざ学校に出向いてる私って本当に偉いと思う。
(夏休みくらい休ませてほしい・・・!)
けど、全国を目指すこの氷帝学園テニス部に休みなんてあるはずもない。
私は重い足取りで学校へ向かう。
容赦なく照りつける太陽がこれほど憎いと思った事はない。
氷帝学園の門を通り、テニス部の部室へ向かう。
「遠い・・・遠すぎる」
ただでさえ広い校内にこのうだるような暑さ。そして正門からかけ離れた部室。
生気が吸い取られるっていうか、もう溶けそう。
「あづーい」
持っていたタオルで滴り落ちてくる汗を拭いつつ、手で扇いでみる。
「・・・あづ・・・」
もちろん風が起こるはずもなく、ただ腕が疲れただけ。
この尋常じゃない暑さに自然と顔も歪む。
「なんて顔してんだよ、お前」
ちょうどグラウンドの横を通り過ぎた時だった。
突然後ろから声がして振り返れば、そこにはランニング中だったのか首に掛けたタオルで汗を拭う宍戸が立っていた。
「元からこんな顔なんですー」
「誰もそんなこと言ってねぇだろ」
「ってか、すごい汗だね・・・ランニングしてたの?」
「ああ」
「こんな暑い中よくやるね・・・見てるだけで暑いわ・・・」
次から次へと滴り落ちる汗を拭う宍戸を見てると、こっちまで暑くなってくる。
「暑い暑いって言うから暑いんだよ」
「・・・さむーい」
「なんかむかつくな、お前」
宍戸と他愛ないやり取りをしているそんな時だった。
「ジロー!やめろって!」
「ぶははっ!がっくんびしょびしょ〜」
聞き慣れた声がコート近くから聞こえてくる。
ジローと岳人だ。
「え、あの2人・・・またふざけてんの・・・?」
「・・・みたいだな」
あいつら・・・!本当懲りない奴らめ・・・!
あんた達がふざける事で私が跡部にどれだけ怒られるか・・・!
現に私は今まで幾度となくあいつらのとばっちりを受けてきた。
跡部曰く、私はマネージャー兼、ジローと岳人の御守り役らしい。
「私はこいつらの親じゃなーいっ!!」
と、何度抵抗してきたか。だけどあえなく私の意見は却下。
こんな理不尽な事ある?!とばっちりはもうごめんだ!
「ジローに岳人ーっ!!」
私は2人の名前を叫びながら、コートを目指して一直線に走った。
ついでに持っていたタオルを振り回しながら。
暑いよ!?とっても暑いですよ!?
正直走るのなんて真っ平御免だよ!?
だけど、あの俺様何様跡部様にとばっちりを受けるくらいならこんな事、苦痛の苦にもならないさ!
「・・・十分、元気あんじゃねぇか」
目先の事で必死だった私に宍戸の言葉は届くはずもなく。
通り過ぎる木々からはミンミンと蝉の声がうるさい。
「俺にもホース貸せって!」
「やだC!」
「ちょ、貸せって!」
段々ジローと岳人の声が大きくなる。
私はいきおいよく2人の前に飛び出した。
「こらっ!!ジローに岳人っ!!」
「げっ」
「うわっ!」
「へっ・・・?・・・わっ!!」
辺り一面が静寂へと変わる。
私は俯いたまま顔が上げられない。
何故なら、今起きたこの状況が理解出来ないから。
(ねえ・・・なんで私ずぶ濡れなの・・・?)
「あははっ!みんなびしょびしょだC〜!」
ジローの楽しそうな笑い声が辺りに響く。
髪の毛からぽたぽたと滴り落ちる雫を拭って、ゆっくり顔を上げる。
ジローの手にはしっかりと握られたホース。
やっと自分の身に起きた事が理解出来た。
(やりやがったな・・・!)
ジローと岳人がホースの取り合いをしてるところに運悪く私が飛び込んで。
びっくりした2人はホースから手を放して、三人ともびしょ濡れってわけ・・・。
若干自業自得な気もするけど。
私はキッと2人を睨む。だけど、2人はただ頬を赤らめて私を見ているだけ。
「バカか、お前っ!」
いきなり声が降ってきたと思ったら、振り返る間もなく目の前が一瞬真っ暗になって。
びっくりして硬直してたら上からすっぽりとレギュラー用のTシャツを被せられていた。
おかげで手が動かせない。
被せられたジャージに視線を下ろした後、顔を上げて振り返れば・・・
上半身裸の宍戸がっ・・・!!
「ぶっ・・・!!あ、あんた何やってんのさ!変態!!」
「は!?テメーの方がよっぽど変態だろうがよっ!見たくもねーもん見せんじゃねーよ!」
宍戸は顔を少し赤らめてそっぽ向く。
(み、見たくもねー・・・?何、それ?)
「モロ透けてんだよ、お前」
「はい?」
透けてるって・・・まさか、もしかして・・・
宍戸の言葉の意味をやっと理解する。
火照った体からサーッと血の気が引くのがわかった。
(し、下着・・・見られた・・・!?)
もう一度宍戸の顔を見れば、頬が少し赤い。
「み、見たな・・・っ!!」
「だから見たくて見たんじゃねーよ!」
「ジローも岳人も・・・!!」
「ちゃん、ご馳走様ー!」
そう言って一目散に逃げ出すジロー。
「ちょっ、待てってジロー!」
そして、その後を追うように走り去る岳人。
「こらーっ!待て「お前が待て」
走って追いかけようとしたら服を思いっきり引っ張られて。
両手の自由が利かない私は少しよろめく。
「・・・っと」
「たく、あぶねぇ奴だな。本当」
倒れそうになった私を受け止めてくれたのは宍戸で。
「『あぶねぇ』ってあんたが引っ張ったんでしょうが・・・!」
そう言い返そうと思ったのに。
背中に触れる宍戸の胸元から体温が伝わる。
異常に鼓動が高鳴って、振り返って宍戸の顔を見る事も出来ない。
「それ、貸してやっから早く着替えてこいよ」
「あ・・・うん」
「・・・なんだよ、妙に素直だな。気持ちわりぃ」
「なっ・・・!」
私を見て少し笑う宍戸。
いつもなら言い返してやるのに・・・!
頭が真っ白になって言葉が出てこない。
「じゃ、じゃあ!ま、また後で・・・!」
「どもりすぎだろ」
「〜〜〜!」
私は逃げるようにしてその場を去った。
両手が動かせないからものすごく走りにくい。
照りつける太陽がとても暑い。
だからこの鼓動の高鳴りも、頬の熱さもきっと・・・
青 い 空 の 下 で
(この夏の暑さのせいだ)