俺のこの想いは・・・アンタには届かない。



俺はこの青春学園中等部に入って、とある女に出会った。
その人の名前は、
俺の2つ上の先輩。そして、テニス部のマネージャー。
俺が入学すると同時に一気にある噂が広まった。
“アメリカ帰りのスーパールーキー”
それが俺の異名だった。
その言葉に興味を示した人達がやたら絡んできて。
先輩も・・・その1人だったんだよね。

「ねえねえ越前くん!君、すごいんだってね!」

(・・・何がすごいんだか)

思わず心の中で突っ込みをいれる。
本当にこの人はわかって言ってるのだろうか。

「別に」

俺はそう言い残してその場を去った。
どうせ周りの人達と一緒で日が経てば落ち着くだろう、と思いながら。
けど、俺がどれだけ冷たく接しても、だるそうに返事しても、先輩は懲りもせず俺のところへ来る。
正直鬱陶しかったけど、それが当たり前だと思ってた。

「越前くんは可愛いなぁ」

そう言って俺の隣で笑うアンタが当たり前になってた。
気付かなかった、この気持ちに。
当たり前だと思ってた、先輩が隣にいる事。

「不ー二っ!」

先輩の笑顔の先には不二先輩。
不二先輩はいつもみたいに少し笑ってそれに答える。

「今のすごく格好良かったよ」

その時放った、先輩の言葉で気付いた。
俺に向けられていた言葉は“可愛い”で不二先輩には“格好いい”。
“格好いい”が俺に向けられないのは・・・きっと想いが違うから。
なんで見抜けなかったのか。
なんで・・・
らしくない思いが俺の中を駆け巡る。
最初から俺、先輩の眼中に入ってなかったんだ。
浮かれてた。
先輩が見せてくれるその笑顔が、いつしか俺のもんだって独占欲が生まれてた。

「格好悪・・・」

コートの色が変わる。
ぽつぽつと雫が頬を掠める。

「練習は中止だ!1年はボールとネットを片せ!」

コートの入り口で手塚部長の声が聞こえる。
そんな声も掻き消してしまうくらい、雨の勢いは強くなる。

俺にはテニスがあるじゃん。
そう、いつもと変わらない。
いつだって俺の中ではテニスが1番だった。
今までと同じ。
そう思おうとしても胸がもやもやするのはきっと・・・

先輩がテニスと同じくらい、俺にとって当たり前になりすぎたから。

テニスラケットをぎゅっと握る。

「越前!何をしている!」
「うぃーす」

手塚先輩の声にやる気のない返事を一つ返して。

雨が降ってくる空を見上げる。

頬に冷たい雫が掠める。



雨 雨 、 降 れ 降 れ 、 も っ と

(ねえ、お願いだから俺のこの想いも全部洗い流してよ)



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