いつだってあなたは真っ直ぐ素直な言葉をくれたのに、私は逃げてばっかりだった。
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私は言葉を呑み込んで、ただ泣く事しか出来なかった。
泣いたって何も変わらないとわかっていても、ただただ泣く事しか出来なくて。
「あ!ちゃん発見!」
その声にハッと顔を上げる。
そこにはジローくんが立っていた。
「・・・あれ、泣いてんの?」
「、ううん!」
私は急いで涙を拭った。
「何、どうしたの?」
ジローくんは隣に座って、心配そうな顔をしてこちらを覗き込む。
「全部吐き出してみなよ」
今の私にはあまりにも優しすぎる言葉で、またぽたぽたと涙が落ちた。
吐き出してしまいたい、全て―――上手く言葉にならないけど、聞いて欲しい。
「ジローくん・・・私ね、自分の考えとか想いとか上手く伝えられなくて、」
「うん」
「不安にさせたくないのに、気の利く言葉一つ言ってあげられない」
「うん」
「いつだっていっぱいいっぱいで、自分の事ばっかりで、」
「うん」
「でも嫌われるのが怖くて、」
「うん」
いつだってそうだ。想いだけが先走って言葉にならない。
景吾にどれだけの事を話せただろう?想いの半分も伝えられてないんじゃない?
聞いてくれないんじゃない、避けられてるんじゃない、私が話さなかっただけ―――。
そんな大事なことに今更気付く。
「でも、ちゃんと話せたじゃん」
にかっと笑ってジローくんは言う。
ああ、なんて綺麗な笑顔なんだろう。
今の私にはそれさえ眩しく感じた。
(・・・って、あれ・・・?)
「本当だ、ジローくんには話せた・・・」
自分自身に驚いた。
あんなに話すのを躊躇って言葉にならなかったのに、ジローくんの前ではすらすら話せた。
「ちゃんは話せないんじゃなくて、ただ跡部に嫌われたくなくて言葉を選んでただけだよ」
ああ、そうだ・・・ジローくんの言う通りだ。
いつだって嫌われたくなくて素直な言葉を隠して、綺麗な言葉を選んでいた。
景吾はいつだって素直な言葉と想いをぶつけてくれたのに、嫌われたくなくて傷付けたくなくて本当の私の言葉を隠してきた。
それが反対に景吾を不安にさせて、こんな事になってしまった。
「あと、これは跡部から絶対言うなって言われてたんだけど、」
ジローくんの顔が真剣になった。
私は息を呑む。自然と気持ちが身構える。
「ずっとちゃんを避けて連絡取らなかったのは、傷付けたくなかったからなんだって」
(え・・・どういう事・・・?)
「跡部はちゃんみたいに自分の気持ち抑えたり我慢したり出来ないからさ」
「・・・」
「お姫様役やるのを見守るなんて出来なくて。一緒にいればちゃんに八つ当たりして傷付けてしまうからって」
私はただただジローくんが説明するのを黙って聞いていた。
「これがどういう意味かわかるよね?」
ああ、なんだ。景吾も私と一緒だったんだ。
上手く言葉にする事が出来なくて。
私を避けて、連絡を取らなかった景吾。忍足くんに責められても反抗出来なかった景吾。悲しそうな顔をした景吾。
私と同じ。どうして気付いてあげられなかったのだろう。
ただ傷付けたくなくて言葉に出来なかっただけ。だけど言葉にしないと想いは伝わらない。言葉に出来ない私達は誤解を生む。
私達は不器用で。だから遠回りもするし、傷付きもする。
「ジローくんありがとう、やっとわかった」
まだ今なら間に合う。私は再び走った。
今度は迷ったりしない。
目指すは、たった一人の王子様。