「悪いな、忙しくて連絡とれなかった」

そう言って、いつものように少し微笑みながら会いに来てくれるんじゃないかって。
心のどこかで期待していたんだ。



D i s h a r m o n y



気付けば、あっという間に文化祭当日を迎えていた。
学校はいたるところに飾り付けされていて、いつもの学校とは別のように思えた。
みんなの顔からは笑みが溢れていて、見ているだけで楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
けれど、私の気持ちは重く沈んだまま―――。
重い足取りで教室に向かった。
教室の前にくると中から女子達の賑やかな声が聞こえてくる。
教室の扉を開けると、その音にみんなの視線が私に集まった。

「あっ、おはよう!」
「きたきた!主役の登場!」

女子達が誰かの周りを取り囲んで盛り上がっていた。
何がなんだかわからなくて立ちすくむ。

「じゃーん!」

そう言って、女子達は円を崩す。
その中心に立っていたのは、忍足くんだった。
スーツを土台にしてつくられた王子服を身にまとったその姿は、本当に王子様のようだった。

「なんや、かっこよすぎて言葉もでんか?」

そう言って不敵な笑みを浮かべる忍足くんに、ハッと我に返る。

「さあ、次はの番だよ。男子達は道具持って体育館に行ってて」
「おー」

その一声に男子達は道具を手に、ぞろぞろと廊下に出始めた。

「じゃあ、向こうで待ってるで。お姫さん」

忍足くんと目が合って、それが私に向けられた言葉だという事に気付いた私は「うん、後でね」と返した。

「じゃあこれ着てね」

そしてクラスメイトから渡されたのはシンデレラが召使いだった時に着ていたボロボロの服。
なんとか原型は留めていたけども、所々に汚れや穴が空いていて。
それはとてもとても忠実に再現されていた。
男子達が全員出たのを確認して、私はそれに袖を通す。
ボロボロな服・・・
まるで私の気持ちを具現化したみたいだなと、嘲笑する。

シンデレラは王子様と一緒に踊った楽しい時間を夢に見て、いつか王子様が迎えにきてくれるのを待っていたんだ。

シンデレラと自分の姿が重なる。

?」

友達の声に心臓が飛び跳ねる。

「考え事?」
「あ、ううん、なんでもない」

心配そうに顔を覗く友達。
必死に自分を取り繕った。
薄く化粧をして、髪を整えて、三角巾を頭に巻いた。そして手には箒。
その姿を鏡に映す。

「よし!これでどこからどう見てもシンデレラ!」
「あ、もうすぐ公演の時間だよ」

その声にみんなの視線が時計に向く。
残った小道具を手に廊下を走る。しんどいはずなのにみんなの顔は楽しそうで、私もつられて嬉しくなる。

現在10時48分。
12分後、シンデレラの物語が始まる。



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