わかってもらえるかわからないけど、それでもあなたに伝えたい。



N o t  A n d



翌朝。
意気込んで学校の門を通り、そして早足で景吾の教室に向かった。
・・・のはいいけど、当の本人が見当たらない。
テニス部は朝練があるけど、この時間にはいつも教室にいるはず。

(どこに行ったんだろう・・・)

廊下に出ると、ちょうど宍戸くんとジローくんが歩いてくるのが見えた。

(あの2人に聞けばわかるかも!)

期待に胸を躍らせ、私は駆け足で2人のもとへ駆け寄った。
先に私に気付いたのは、ジローくんだった。

「あ、ちゃん!」
「ジローくん、宍戸くん、おはよう」
「おう」
「おはよー!」
「景吾どこに行ったか知らない?」

私の質問に宍戸くんとジローくんは目を合わせて、気まずそうにする。

「跡部なら先に教室帰ったはずだぜ?」

そう口を開いたのは、宍戸くんだった。

「え、でもいないんだけど・・・」
「んー文化祭前だし、打ち合わせとかで忙しいんじゃない?ほら、生徒会長もやってるCー!」
「・・・あ、そっか。じゃあ、また後で来てみる。ありがとうね」
「わりぃな、役に立てなくて」

申し訳なさそうにする宍戸くんに、「そんな事ないよ」と少し笑って自分の教室に戻った。





一限目終了後、学校に授業終了を知らせるベルが鳴り響く。
ベルが鳴り止むと同時にすぐさま景吾の教室へ向かった。
いくら忙しくても、授業終了後にいけば景吾に会えるだろうと私は踏んだのだ。
けど、景吾はA組で私はH組。つまり教室の距離は端から端。マンモス校だから仕方ないとは言え、この距離が憎い。
急いで向かって教室を覗き込む。けど、そこに景吾の姿はなかった。
授業が終わってまだ一分も経っていないはずなのに・・・

(もしかして避けられてる・・・?)

そんな不安が頭をよぎる。
いつもなら忙しいんだろうなと、気に留める事もない。
けど、今日は違う。昨日の事があったから、不安で仕方がない。
ポケットからスマホを取り出して、そして画面に景吾の番号を表示させる。
発信ボタンを押せば、景吾に繋がる。難しい事じゃない、このボタンを押すだけ。
けど、出てくれるだろうか?
言い知れぬ不安が私を襲う。
電話に出てくれなかったらとか着信拒否されてたらとか、考えれば考えるほど、不安要素は募っていく。
廊下に呆然と立ち尽くしたまま、そのまま動く事が出来なかった。
廊下にはたくさんの人が行き来している。
話し声や笑い声がが響き渡る。けど、その中で自分だけが取り残されてるような錯覚に陥る。

(押せ・・・!)

自分に言い聞かせた。一刻も早くこの感覚から逃れたかった、その思いが私を突き動かした。
親指でそっとタップして、スマホを耳に当てる。
けど聞こえてくるのは無情にもガイダンスの声。

『おかけになった電話をお呼びしましたが、お繋ぎ出来ませんでした』

あれから、何度かかけ直したけど、聞こえてくるのはガイダンスの声。
教室にも行ったけど、景吾の姿を見つける事は出来なくて。
運が悪いのか文化祭前の部活は休み。景吾からの連絡は一切来ない。
ここまでくると気付きたくなくても、気付いてしまう。

(完全に嫌われ、た・・・)

だって、そうとしか考えられない。
あれからなんの連絡もない。教室にもいないし、今朝の宍戸くんとジローくんの様子もおかしかった。
気持ちが鉛のように重たい。深く沈んでいく。
けれど、景吾の事ばかり考えているわけにもいかなかった。
文化祭の劇の練習がある。主役を演じるには人一倍練習しないといけない事はわかっていた。
だから景吾の事ばかり考えていられない。
そう自分に言い聞かせて練習に励んだ。
何かを演じる事は、考えてたよりそう簡単ではなくて・・・
でもそのおかげで、この時だけ景吾の事を忘れる事が出来た。
今の私にはそれが唯一の救いだった。
こんな事になったきっかけの劇に救われるってね・・・
そんな私を気遣ってか、忍足くんが時々声を掛けてくれて。
王子役の練習も大変なはずなのに・・・
そんな忍足くんの些細な優しさにも救われて。
そんな毎日が続いた。日に日に外は寒くなって、日が落ちるのも少しずつ早くなっている気がした。
冷たい風が身に凍みる。けど、その冷たさは今の私にとって心地よいものだった。
次々と風に攫われて葉が舞い落ちる。ひらりひらり、と無情にも落ちていく葉。
自然と感傷的な気分に浸ってしまう。そして思い出す、景吾の事・・・
景吾に嫌われたかもしれない。
連絡もつかない。会えない。どうしようもない。
けど、私は心のどこかでまだ諦めきれずにいたんだ。




inserted by FC2 system